阪急岡本駅の北西に岡本南公園(櫻守公園)があります。笹部新太郎(1887-1978)の邸宅跡を神戸市が買受けて桜公園にしたものです。
桜と言えば通常はソメイヨシノです。代表的な園芸品種だそうですが、古来より日本の伝統芸能や和歌に登場する桜はヤマザクラなどの野生のサクラで、「吉野の桜」はそれにあたるようです。そんなヤマザクラや日本固有種の桜の保存と育成に生涯を捧げた人物が笹部新太郎です。人々は彼を“桜博士”と呼び、水上勉の小説『櫻守』に登場する竹部庸太郎のモデルにもなっています。
小説『櫻守』の一節を紹介します。
「弥吉をつれ、橘喜七が、阪急電車の岡本駅を降り、山手へ十分ばかり歩いて、屋敷町にある竹部庸太郎の家を訪ねたのは、昭和十八年の六月、梅雨空のうっとうしい一日である。」
また、ソメイヨシノについては
「日本の桜でも、いちばん堕落した品種でこんな花は、昔の人はみなかったという。本当の日本の桜というものは、花だけのものではなくて、朱のさした淡みどりの葉と共に咲く山桜、里桜が最高だった。」
「あれは、花ばっかりで気品にかけますわ。」「土手に植えて、早うに咲かせて花見酒いうだけのものでしたら、都合のええ木イどす。全国の九割を占めるあの染井をみて、これが日本の桜やと思われるとわたしは心外でねや」
と記述され、古来種を愛した桜博士であったことがわかります。
笹部新太郎は、1960年には岐阜県の御母衣ダム建設に伴い、湖底に水没することになる400余年の2本の老いた巨桜の移植を成功させる奇跡を生みました。荘川桜物語としてその足跡が残されています。
櫻守公園にはササベザクラをはじめ、エドヒガン、オカモトザクラなど10種約30本の桜が植えられています。
公園の中の桜を見てみると、
オオシマザクラは花や葉も大きめ。花も葉が同時に出て、咲き始めは純白。花弁は5まいで先端に浅い切り込みがあります。塩漬けした葉は桜餅に使われるようです。
オカモトザクラは本公園で発見された桜です。オオヤマザクラとオオシマザクラの交雑の結果、誕生したと考えられるそうです。微淡紅白色、一重咲き、大輪が特徴です。
イトザクラはシダレザクラと呼ばれて、枝が柔らかく枝垂れるサクラの総称です。狭義のシダレザクラの他、ベニシダレ、ヤエベニシダレ、ウジュウシダレなど多くの新品種があリます。
ササベザクラは、笹部氏の邸宅にあった桜で遺言により名付けられたようです。おしべが変化して旗弁という花びらに変化して、八重桜との間(半八重)に分類されています。カスミザクラとサトザクラ類との交雑種と推定されています。枝の近くに密集して咲くのが特徴のようです。
桜と言えば、華やかなソメイヨシノしか思い浮かばなかったのですが、小説『櫻守』に描かれた笹部新太郎の桜に対する情熱と実際に櫻守公園に咲いているいろんな種類の山桜を見ると、改めて日本固有の桜に興味を覚えます。毎年この季節が楽しみです。
いいね。やっぱり神戸が好き。
もっとKOBE ずっとKOBE
ではまた次回をお楽しみに♠️